前橋自主避難者訴訟

 1/10 自主避難者の報道と平等補償
 2017年3月17日前橋地方裁判所で福島から避難した45世帯(137人)が、津波の予見がてきたとして、国と東電に15億円の損害賠償を求めた訴訟判決があった。報道によると同様な訴訟件数は30件あり、国の定めた賠償基準を東電が、かたくなに守ろうとする姿勢に批判が強いという。避難者の住宅の無償提供が3月で切れ、生活が厳しくなっている折、慰謝料の損害賠償の判決であった。
 国民1人1人が復興特別所得税を収めており、マスコミは県外移住の動機、震災前の生活、避難生活、賠償額、住宅の無償提供、生活困窮の理由などの状況を発表するべきである。すべての新聞は自主避難者に同情的だけで、このような点まで精査した記事が無いのは残念である。賠償基準を守ることは、原発賠償で平等補償を行うことであり、絶対必要なことである。
 日本は自由経済国で経済の中心は民間企業で、その繁栄で国が成り立っている。「東電つぶす」と恫喝したのが菅首相であった。愕然としたもので「あらゆる力を集め東電の復旧に努める」とても言ったら国民も元気になると思った。地域の発展は企業の発展で、経済波及効果をもたらし、人々の雇用と生活を守るもので、東電に安易に追加賠償するのは芳しくなく、まずは福島県が情報を収集して問題を把握しているはずで、自主避難者の生活困窮者については、必要なら福島県は何らかの緊急支援をするべきであると思う。

 2/10 津波予見と大川小学校訴訟
 津波の予見できたという裁判の判例として、大川小学校訴訟がある。まずはこの訴訟を見ることにする。
 大川小学校訴訟は宮城県石巻市立大川小学校で、生徒の津波避難の引率を、裏山ではなく川の堤防にしたため、多数の被害者が出た損害賠償の裁判であった。教職員は津波が学校に襲来すると予見しており、安全配慮を欠いたためとして、石巻市と宮城県は約14億円の支払を命じられた。





 この小学校自体、避難所になっており、生徒の避難先は高台と定めてあったという。雪がある裏山への避難をさけ、川の堤防(6〜7m)に避難をしたが8mの津波に飲み込まれた。遺族側は裏山に避難すると助かったと、市は想定外の大津波で予見できなかったとしたが、防災無線が大津波警報を告げていたため、裁判では市は予見できたと判定した。大川小学校の生徒108人中死亡者68人、行方不明6人。教師13人中死亡9人、行方不明1名の多数の子供たちを失った、悲しい災害事故であった。
 要点を整理すると、地震→津波の大きさを防災無線で予見をしながら→避難場所を裏山とせず、川の堤防にした安全配慮義務違反→災害事故
問題点は、津波の予見ができたのに、避難引率の不手際が重大な事故を起こしたとしているが、教師は避難の訓練を十分受け、避難誘導の資格や認定者と言った資格を持っていたと思えず、津波を前に緊迫した状態の中で、避難先を決定しなければならない苦慮は,当の本人でなければ分からないと思う。
 裁判結果は、類似紛争を鎮めるための判例になる使命をもっている。この意味でどうでもとらえられる曖昧な「予見」をもって、裁判の判例となるのは疑問である。全能を持たない我々は、震災前に想定外の大震災を予見できたかと尋ねられるとノーと答えるでしょう。

3/10 前橋自主避難者裁判の地震予見の問題点
 話題を本裁判に戻す。判決は原道子裁判長のもとで行われ、津波を予見でき、原発事故を防げたとして、国と東電に賠償命令を出した。地震を予測して大津波を予見できたという判決より、単に大津波を予見できたことを判決の理由にしている。想像できる背景は、例えば福島第一原発は海側にあり、第二原発は海側の高台にあり、津波の影響が少なかったため第二原発は無事であったから、津波の予見がこの裁判のポイントになったと推測される。東電は予見しながら津波の対策をとらなかったため、安全配慮義務違反で賠償を求められた。
 この判決は大川小学校訴訟と酷似して大体次の構図になっている。地震→大津波発生を予見しながら津波対策をしない→安全配慮義務違反→原発事故
(注)予知とは地震発生の確率、予測とは場所、日時、震度、津波の到着時間と高さ予定されていること、予見とは発生の可能性を事前に認識すること。記述では予測と予見は同意としている。


 両事件の違いは、大川小学校事件では大津波と判断できれば、避難行動は即く裏山に避難できたたはず。原子力発電所については、大津波が来たとしても、原子力発電所を守る津波対策はすぐできないという違いがある。
 津波の予見はそもそも発生の可能性だけで、発生の明白な期間を定められないため、津波対策の実施の期限も定まらず、対策をしないからといって東電の過失にならない。しかし「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)は、原子力発電所の事故に対し、東電に無過失責任を負わせて損害賠償をさせている。このように東電は過失を認めてる中、無理な根拠である「津波の予見は可能」を持って、前橋地裁が損害賠償の判決したのは、東電への賠償を民事裁判の遡上に載せるためであろう。そして原告の賠償金を東電の賠償金より高くなるだろう。

 地震と津波は一体であるはずが、津波のみ予見を可能とした判決の論法は誤りで、地震の予測はその時の津波もはっきりしなければならない。従って地震の予見とは予測そのもので、予見は場所、日時、震度、津波の到着時間と大きさの発生を予測して認識する事になる。この裁判の判定はズハリ「津波の地震の予測がてきる」と言っていると同じである。 地震のような天地災害の予測は、不可能であることは誰でも分かっていて「津波を予見できたか、否か」を根拠に判決を下して驚いている。
 
4/10 地震の予知とは
 予見できたという事については、平成14年地震調査研究推進本部の「M8クラスの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生する」地震予知を根拠にしている。
 報道による地震予知は前言のように20%の数字だけで、報告書は不明だが、例として考えると確率が100%になるのは数千年後になる。これを1000年として、20%を解釈すると、現在を西暦2000年として、今後西暦3000年までに100%の確率で必ず地震は発生する、30年後の2030年までに発生する確率は20%であることを意味している。もって予知は地震の発生年数の幅が広く、確率で表すため、予知で直ちに津波対策をしなかったという根拠にならない。
 地震の予知もこのようで、予測に関しても事前に数日中に地震が来るなどど言う報道は聞いたことが無い。震災後、地震や津波を予測したとしてスポットライトを当てる報道や記事があるが、霊感的、体感的なものも多く、論理的根拠が認められない疑わしいものである。

5 /10 原発事故と再稼働
【2011年3月11日の東電第一原発の記事】
 巨大地震はM9.0、津波の高さ推定14mで東電の想定の5mをはるかに超えた。福島第1原発で地震後自動停止はしたが、1号機から3号機の非常用デーゼル発電機が津波により不能となり、緊急炉心冷却装置が動作せず、外部受電設備も津波で使用不能となった。国は原子力緊急事態を宣言する。半径3km以内の住民に対して避難指示をした。

 「福島原子力発電所に電気がないとは何事か、電気屋に電気ない」と言ったものである。
外部電源の喪失は送電線鉄塔の倒壊、電線の切断、電線の接触、遮断器、変圧器、配電盤などの電気設備は、いたるところでダメージを受け、運悪く一部の区間は電気工事の最中でもあった。内部電源の発電機は津波襲来で不能になった。これを考えると津波対策は簡単でないことは明らかである。

 原子力規制委員会が福島原子力発電所の原発事故の問題点を精査してつくった、再稼働審査の新規制基準は、安全性を満たしているとされている。
 新規制基準はゼロリスクでないが、安全性は妥当なものとして、大阪高裁は3月28日福井県高浜市の高浜原発の3号機、4号機の再稼働を差し止めていた、大津地裁の判決を取り消した。3月30日には広島地裁は、四国電力伊方原発3号機の運転差し止めをした、広島県の住民の申し立ての仮処分を却下した。
 電力会社は、東電の地震の予見ができたか否かの論争から離れ、原子力発電所の再稼働が法的に認められつつある新規制基準に従い、一層の保全と安全管理に努め、言い逃れのできない責務を負うことになり万全を尽くしてもらいたい。

6 /10 原発補償について
原発被害者に対して、東北大震災の3月21日(月) 原発補償について、枝野官房長官は「東電が責任を持ち十分補償できなければ国が担保する」と発言した。(民主党政権 2009/12/16〜2011/9/2)
 それを裏付けをするのが「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)である。大規模な災害事故で原賠法を適用したのが福島原発災害事故が始めてであろう。頭で描いたような法律で、現実的でない事柄もある。原爆投下時の人口は、広島20万人、長崎15万人ぐらいであろう。しかし福島における原賠法の適用する人数ははっきり公表されていないが、福島県の人口の93%相当の178万人が対象になる、気の遠くなる社会問題で、幸い 原爆投下のような悲惨なものでなく、範囲は広いだけで、国民全体が忍耐と自重と協力で解決できるはずです。
 自主避難者訴訟との関連で、原賠法の賠償を法廷闘争にかえて政府と対決する原因は、現在野党の旧民主党の政権が行った初期政策の失敗も影響している。

7/10避難区分と避難数
 (注)避難者は政府による強制避難者をいう
東電原発補償の対象者は、避難者と自主的避難者に区別されている。避難者は避難市町村にて政府が、放射能による危険性があるため、強制避難をした地域の人々をいう。自主的避難者は避難市町村以外で原発事故の危険等を不安視して自主的に避難した人々をいう。
 避難者、自主的避難者の人数は公表されていないが想定すると、避難者は「図2避難市町村の住民数」から28万人の数である。自主的避難者は150万人であると報道されていることで、福島県を人口190万人とすれば、実に福島県の人口93%の人が原賠法の対象になる。
原発避難者数は県内と県外に避難をしている。県外避難者数は39,218で、避難者は22,649、自主的避難者は16、569人となっている。
前橋自主避難者訴訟はこの自主的避難者の賠償問題をいっている。

8/10 原発災害事故賠償金
 図表1原子力賠償金の項目は、個人、法人・個人事業主に係る項目、共通・その他、除染と4項目にわかれ、現在平成28年度までの合計が7兆円で、平成28年度は1兆円の賠償額になっている。気が遠くなる金額である。
 賠償金の流れは「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が原子力事業者の損害賠償のために必要な資金援助事業を行っている。
機構の収入は、政府交付金収入、特別負担金収入、電力会社からの一般負担金収入、交付国債受贈益で合計2兆1681億円で東京電力に対して 1兆2127億円を交付している(原子力損害賠償・廃炉等支援機構平成27度財務諸表より)
東京電力は図表1原子力賠償金 に示す原子力損害賠償を支払っている。その中には国民は所得税、住民税、年金(所得税)、法人税に対して2.1%を復興特別税として納税、福島の復興を支えている。

9/10 原賠法の問題
 「原子力損害の賠償に関する法律」(原賠法)は原子力事業所の事故の賠償の法律である。東電の原発災害事故の特徴は、賠償対象者が福島県の人々の178万人が被害者となっている。人体に及ぼしている被害は目につくほどでなく幸いである。軽い被害で賠償対象者数が莫大な原発災害事故であり、原賠法の問題点を探ることにする。

 原賠法の重要な問題点の一つは、原賠法に従うと東電が賠償窓口となり、賠償手続きをすることになっている。類を見ない178万人を対象とする賠償業務で、はたして加害者賠償の体制は大丈夫かと心配する。賠償者の人数を特定ししているか、個人番号と連携などして行政の観点から業務が遂行できるようになっているか,原発事故の前後の生活状況や避難状況記録、現在の健康状態など、漏れなく管理されいるかなどを危惧する。
 この賠償期間は相当な長期になり、民間より行政機関が行うべきで、国民に賠償の状況を開示する責務がある。今でも賠償の人数は公表されておらず、市町村も完全に把握ができない状態でもある。

第2の問題は電力事業者は事故を起こすと、過失・無過失に関わらす賠償の責任があり、さらに無限賠償で、賠償が終わるまで無制限に賠償責任を課している。この考え方は、年金型賠償といってもよい、例として原爆被害者には被爆者援護法があり、まず被爆者認定をするとほぼ終始援護となり、裁判では被爆者認定に関するところが多い。原賠法の東電に賠償の不満があれば、原賠法は一般裁判として提訴できるようになっている。前橋自主避難者訴訟がこれである。こうなると原賠法での賠償と一般法の賠償と二重化され、紛争が多発して被害者補償が不平等になり、紛争解決が複雑、困難になり社会不安となる。避難者の医学的、生活環境の状況をみて、期間を定める調整をして無限賠償に歯止めをかける必要がある。

第4の問題点は生活補償の問題点で、年金型賠償になると所得があっても賠償を受けられることになり、国民から不満を買うことになる。生活補償の部分の減額制度が必要になる。

 第5の問題点は原賠法の規定にある、被害者との紛争解決は「原子力損害賠償紛争審査会」で行うことになっている。不服であれば一般裁判紛争になり、賠償の二重化となり、大混乱になる。
原賠法で賠償を行い、紛争審査会で調停を行い、最後は行政審判の方が賠償の早期解決や賠償の平等化、合理的的な判例となり、被害者救済にとって有益になる。いずれにしても原賠法を今後精査して改正して、原子力損害の賠償を解決する上位の唯一な法律とすべきです。

10/10 前橋自主避難者訴訟について
●予見できたか 
自然災害の予知、予測は未来であり、ファジーであって、予見はできるはずはない。予見ができたいえば、真実がなくなり矛盾だらけになる。
●福島自主避難者について
自己責任での県外避難者とよく言われるが、とにかくより安全な場所へと思い、避難することは当た前のことである。自己責任という言葉は賠償査定の結果的な言葉で、むしろ「自己判断」の呼称が適切であろう。しかし自己の意志と費用を自己負担できる避難者で、できない人からみると自己負担といわれるかもしれない。しかし東電は自主避難者に対してそれなりの賠償金を支払っていたはずです。
 6年たって福島に帰還する環境が整備されたのであれば、帰還すべきである。整備がされながら帰還しなのであれば県外移住者であり、生活扶助は移住先の県にゆだねるべきである。
●国会は
 この訴訟と東電の賠償で、賠償方法に二重化をもたらし、社会不安をつくる。国政選挙のアナウンス効果を狙い、国会では無能な論争をし、自主避難者側に立ち選挙効果を狙っている。国会も被害者平等支援を第一主義にして、福島の被害者全体を考えた合理的支援の議論をすべきである。
●次の裁判では
広範な被害者に対して、被害者平等支援を第一主義にして、法の紛争解決に向け、東電の補償が推進できることを期待する。

付1 避難地域の概要図
(黄色) 避難地域 (青色)自主的避難地域
http://www.mext.go.jp



付2 図表1原子力賠償金 東京電力HPより



付3 表2 避難市町村の住民数 避難市町村統計より集計

付4 関連数値データ
(1)賠償支払開始2011年10月より
(2)2016年度の賠償支払額 7.21-6.13=1.08(1兆800億円)
(3)震災前の福島の人口(平成23年1月1日)
人口 202万人  世帯数 721,531
(3)福島の人口190万人(平成29年3月)
(4)福島県1人当り賠償金(年)
1兆800億円/190万人=568,000円
(5)福島県の世帯数774,515(平成28年1月1日)
(6)福島県世帯当り賠償金(年)
 1兆800億円/774,515=1,394,000円
(8)避難区域から同県への避難者数(推定)104、661人
(10)避難区域から他県への避難者数(推定)22、649人
(11)避難者数(推定) 104,661+22,649=127、310
(11)自主的避難者(2012年2月28日読売新聞)
約150万人で、賠償総額は2050億円程度になる見通し
(12)福島県外避難者数39,218人(復興庁2017年3月28日)
(13)県外の自主避難者数(推定)
 39,218-22,649=16、569人
(14)避難者総数 (推定)
 自主避難者150万人+避難者28万人=178万人
(15)福島県の人口の避難者の割合(推定)
178/190=93%